ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Love and Summer" 雑感

 今日は Joshua Ferris の "Then We Came to the End" についてもっと書くはずだったが、昨日のレビューを読みかえすと、「おかしくて、やがて哀しきサラリーマン人生かな」という下手くそな俳句(?)でぼくの感想は尽きている。そこで、昼過ぎから読みはじめた William Trevor の "Love and Summer" を採りあげることにした。周知のとおり、今年のブッカー賞候補作の一つである。
 オッズが現在どうなっているかは知らないが、William Hill によれば(この人の予想って、外れっぱなしなのでは?)、本書は12/1で全候補作中第7位。ちょうど中間だ。ちなみに、1位から6位までは以下のとおり。
  Hilary Mantel "Wolf Hall" 2/1, Colm Toibin "Brooklyn" 4/1
 Sarah Waters "The Little Stranger" 4/1, J M Coetzee "Summertime" 6/1
 James Lever "Me Cheeta" 8/1, AS Byatt "The Children's Book" 10/1
 実際、Hilary Mantel はアマゾンUKのベストセラー・リストにもずっと顔を出しているが、ブッカー賞の選考委員は、こういうオッズや世評の裏をかこうとする傾向がなきにしもあらずなので、上の作品もいくつかショートリストには残らないかもしれない。で、この "Love and Summer" だが、今検索するとアマゾンUKのベストセラー54位。ううん、これもやっぱり消える運命なのか。
 ただ、とても面白い。中年を過ぎた孤独な人間を描くことの多いウィリアム・トレヴァーだが、本書の主人公はどうやら恋に落ちた若い男女。女には夫がいる。どうやら、というのはまだ半分も読んでいないし、いろいろな人物が登場しながら話が少しずつ進むからだが、でも "Love and Summer" というタイトルからして、たぶん間違いないだろう。
 技法的にはイギリスの伝統的な小説のスタイルで、何のけれんもない。各人物をしっかり造形し、特に劇的というわけでもないのに巧妙な話術で場面をつなぎ、いろいろな方向を導きながら、やがて一つの主筋へと収斂させる…ようだ。
 そんな名人芸を楽しみながら読んでいるのだが、でもこれ、ぼくが予想するような話の成り行きだと面白すぎて、ブッカー賞にはどうかなあ、という気もしてきた。さて、予想は当たるでしょうか。