これは面白い! ぼくのようにダラダラ読まなければ、なおさら面白いはずだ。600ページを超える大長編だが、時間のある人なら一気に読みたくなると思う。適度に濡れ場もあってサービス満点。いや、ちと過剰気味で、この半分くらいの分量でも同じヒーリング効果が得られたのでは、という気がするのが玉に瑕。あとは「文芸エンタメ」としてまったく申し分ない。
このマリアン・キースという作家、ぼくは知らなかったがイギリスではかなり売れっ子のようで、あんたモグリの洋書オタクだね、とまたまた笑われそうだ。もしかしたら、すでに旧作の邦訳も出ているかもしれない。でなければ、本書は十分、翻訳に値する作品だと思う。アマゾンUKのベスト10に選ばれたということで、もう版権を取得している出版社もありそうだ。
語り手の「私」の正体は結局、最後までわからなかった。いちおうメモを取りながら読んだのだが、たぶんヒントらしきものはなかったように思う。それから、「カウントダウンしたあげく何が起こるのかも」完全にお手上げ。「…まあ最後はハッピーエンディングなんだろうけど、その前の大事件が読めない」と雑感に書いたとおりだ。「一口に言えばたぶん、ラブコメでしょうな」という感想も一面の本質をついているだけで、途中の予想はことごとく大はずれ。「最後はハッピーエンディング…」なんて、予想のうちに入りません。
言い訳になるが、それほど作者の計算がこちらの予想を上回っていたということで、ぼくの乏しい読書体験では、こんな設定の小説は初めてだ。ネタばらしは控えたいが、もしかしたらSFファン、オカルト小説ファンならピンとくるかもしれない。ぼくとしては、「神様からのプレゼントのような作品」と言うしかない。ラブコメの体裁を取りながらじつは…というのがマリアン・キースの真骨頂なのかも。いやはや、見事にダマされました。