ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Solo”(3) と“The Slap”雑感(1)

 マジック・リアリズムの小説といえば、とにかく奇妙きてれつ、まことにケッタイな世界が繰りひろげられ、何が何だかわからないがメチャクチャ面白い。ただ、読みおわったあと、はて、作者は何が言いたかったのだろうか、「この現実は果たして、現実と虚構の混淆によってしか描きえない現実なのだろうか」と首をかしげることが多い…というのが勉強不足を棚に上げたぼくの実感だ。
 その点、Rana Dagsupta の "Solo" の「テーマはずばり人生の夢であり、夢を描くのにマジック・リアリズムほど適切な技法はないかもしれない」。…などとエラソーなことをレビューに書いてしまったが、じつは雑感でもふれたとおり、途中まで「正直言って、その意図がさっぱりつかめなかった」。だからと言うわけではないが、これはやはり「何が何だかわからない」まま読み進み、最後に、なるほど、そういうことだったのか、と小膝をたたくのがいちばんかもしれない。ともあれ、"Solo" はぼくにとって、人生の夢以外にも不条理など、マジック・リアリズムにふさわしいテーマがけっこうありそうだな、と認識させてくれた作品である。
 …本当はもっとマジック・リアリズムについて論じようと思っていたのに、えらく駆け足になってしまった。というのも、昨日から読みはじめた Christos Tsiolkas の "The Slap" がとても面白く、今日はどうしてもその話をしたくなったのだ。"Solo" と同じく英連邦作家賞(Commonwealth Writers' Prize)の受賞作で、同賞を取ったのは昨年なのに、なぜか今年のブッカー賞のロングリストにノミネートされている。
 疑問に思ったのでちょっと調べてみると、これは2008年にオーストラリアで出版された作品だが、イギリスではこの春まで未刊だったらしく、それゆえ今年のブッカー賞の審査対象になったのだという。過去にも似たような例があって、有名なのがあの Yann Martel の "Life of Pi" なんだとか。ちょっとしたトリックのような気がしないでもない。3年前には、英連邦作家賞を取った Lloyd Jones の "Mister Pip" がそのままブッカー賞の候補作に選ばれているし、Peter Carey の "The History of the Kelly Gang" にいたっては2001年にダブル受賞しているからだ。
 ともあれ、この "The Slap" は無類に面白い読み物だ! あまりに面白く、今日でもう半分まで読んでしまった。だけどブッカー賞はたぶん無理でしょうね、というのが率直な感想で、その点について詳しく書こうと思ったのだが、ここまで駄文を綴っただけで息が切れてしまった。今日は何だか中途半端な話ばかりでした。