ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

A. D. Miller の “Snowdrops” (1)

 今年のブッカー賞最終候補作、A. D. Miller の "Snowdrops" を読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

Snowdrops

Snowdrops

[☆☆☆] 生ぬるい演奏の「ボレロ」を思わせるようなクライム・ストーリーだ。当初から犯罪を匂わせる伏線が随所に張られ、やがてそれがある事件、正確には3つだが本質的には同様の事件へと収斂していく。当然、次第に盛り上がりを見せるはずだが、実際はそうでもない。舞台はプーチン大統領時代のモスクワ。当地に長期滞在中のイギリス人弁護士が、若い娘と出会って恋に落ちる。仕事関係では、石油の取引をめぐり、危険な匂いをぷんぷんさせる連邦保安庁の高官も登場。ざっとそんな人物関係がつかめたところで、それぞれの事件の大筋はおろか、結末でさえも見当がつく。それゆえ、ここには厳密には謎は存在せず、不可解な状況から生まれるはずのサスペンスも乏しい。終始一貫、ほぼ同じリズムで犯罪のメロディーが流れ、それが手に汗握る山場を迎えないまま終わる「ボレロ」。熱気や個性的な魅力に欠ける文体も、その単調さを助長している。