ブッカー賞作家 Anita Brookner のデビュー作 "A Start in Life"(1981)を読了。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 「文学のせいで人生が破滅した」と嘆く中年の文学博士ルース・ワイス。一体どこでつまづいたのだろうと、本好きの少女時代から
バルザックの研究に取りかかった学生時代までを回想する。おもな事件は失恋や不倫、両親の痴話喧嘩、祖母と母親の死などごく日常的な悲劇だが、いずれもドタバタ気味の喜劇でもあり、若きルースは終始その悲喜劇に巻き込まれる。元女優でプライドの高い母、その身の回りの世話を引き受ける
面従腹背の父をはじめ、平凡ながら一癖ある人物が勢ぞろい。いくぶんデフォルメした存在感たっぷりの面々で、その過不足ない描写は新人作家のものとはとても思えない。場面転換も鮮やかで、事態が急変するタイミングも絶妙。事件はどれも各人物のキャ
ラクターがもたらす
当然の帰結であり、それゆえ、ルースが専門とする
バルザックのイギリス版人間悲喜劇と言えよう。彼女は何も述懐どおり文学ゆえに破滅しているわけではない。人間が人間であるがゆえの事件に巻き込まれ、かくして人生が、文学が始まったのである。