ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

A. B. Yehoshua の “A Woman in Jerusalem” (1)

 このところ超多忙の毎日で、すっかり読書もブログもサボってしまった。おかげで当初の予定が大幅に遅れたが、少しずつ読んでいた2006年のロサンジェルス・タイムズ紙最優秀小説賞の受賞作、A. B. Yehoshua の "A Woman in Jerusalem"(2004, 英訳2006)をようやく読了した。Yehoshua はイスラエルの作家で、ヘブライ語からの英訳である。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★] ヒューマニズムをからかった結末がケッサクで、★をひとつおまけ。途中のプロセスも、一気に読めばそれなりに楽しめるかもしれない。エルサレムの製パン会社の清掃員だったロシア系移民の女ユーリャが爆弾テロの犠牲になるが、会社は安否を確認せず、ユーリャは身元不明のまま病院のモルグに安置される。それを「非人道的な行為」としてジャーナリストが告発。自責の念にかられた社長が人事部長に事実関係を調査させ、やがて部長は葬儀を手配すべく、はるばるロシアの田舎町まで出かける破目に。部長の独白どおり、だれもがささいな問題で大騒ぎしている感を否めず、すべて茶番の連続としか思えないが、こうした不条理でこっけいな現実の果てに皮肉な結末が待っている。ユーリャの薄倖の人生と孤独な人物像がしだいに浮かびあがる点が味わいぶかく、ドタバタ騒ぎにシュールな夢がまじり、視点の変化も巧妙、上々の仕上がりである。