去年のブッカー賞最終候補作で唯一読みのこしていた A. S. Byatt の "The Children's Book" をやっと読了。今まで6回にわたる雑感のまとめに毛が生えたものになりそうだが、とりあえずレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 19世紀末から20世紀初頭、
第一次大戦にかけて子供から大人へと成長した世代のクロニクル。当時の親たちの世代もふくめ、各人物の人生行路に代わるがわるスポットを当てたものだが、その当て方がほぼ均等で、ほぼ同程度に細かく、しかもそれが相当多数にのぼり、また
ヴィクトリア女王時代の末期から世界大戦までの背景説明も詳細をきわめるため、次から次に続くモザイク模様をながめているようで、物語の進行が非常にスローペース。大人たちには、斜陽の射した
大英帝国黄金時代の末期を象徴するかのように光と影、表と裏の顔があり、人生の醜い現実を知ることによって子供たちは大きく変化する。大人と
接触することで自身の欲望を満たしたり、成長するにつれて自分も裏の顔をもったり、子供たちのほうも決して純真無垢な存在とは言えないが、人生の現実に直面して各人各様、それまでの生き方を一転させることはたしか。そしてその変化をすべて飲みこむかのように戦争が勃発、彼らはさらに変身せざるをえない。女流
童話作家のフェアリーテールや人形劇など、現実とフィクションの混交に近づく場面が小説としてのふくらみを増しているし、男女の恋愛、危険な秘密の関係、同性愛といったメロドラマの要素もかなりあって楽しめるが、そういう流れが大いに盛りあがったかと思うと「モザイク模様」の中に埋もれてしまい、尻切れトンボに終わっている。それより何より、小さな枝葉が多すぎて子供の成長と変化という大きな幹さえ、なかなか見えてこない。力作ではあるが、どの細部にも力をいれすぎた結果、秀作になりそこねている。英語は語彙的には相当に難易度が高いほうだと思う。