今年のアレックス賞受賞作のひとつ、Robin Sloan の "Mr. Penumbra's 24-Hour Bookstore" を読了。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★] 序盤は最高。サンフランシスコに住む青年クレイが夜勤の店員として働きだした24時間営業の小さな書店は、じつはふしぎな図書館だった。深夜、たまに訪れる客が本を返し、またべつの本を借りていく。その本はどれも市販されていないものばかり。そこにはどんな意図が隠されているのか。客たちは、店主の老人はいったい何者なのか。このファンタジーを思わせる怪しい雰囲気はすこぶる蠱惑的だ。が、従来の幻想小説とは大いに異なる点がある。クレイはコンピュータの知識が豊富で、グーグル社に勤務する恋人をはじめ、親友やルームメイトたちの協力をえて、奇妙な書店にかんする情報をデータ化・映像化、その秘密に少しずつ迫ろうとする。本書はいわば、幻想とハイテクが融合した現代のフェアリーテイルなのだ。軽妙な筆致でユーモアもあり、手に汗握る冒険も織りまぜられるなど、しだいに謎が解けていく過程はかなりおもしろい。紙の文化とデジタル文化の競合と併存という問題が浮かびあがる点も秀逸。が、その謎の真相は……竜頭蛇尾とだけ述べておこう。