ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

L. P. Hartley の "The Go-Between" (1)

 ゆうべ、L. P. Hartley の "The Go-Between" を読了。Hartley は、創元推理文庫怪奇小説傑作集2』の第1話「ポドロ島」の作者である。さて、ひと晩寝かせたところで、どんなレビューになるでしょうか。
 追記:その後、映画化されていることを発見しました。ジョゼフ・ロージー監督作品『恋』(1971)です。

[☆☆☆★★★] 無垢とは、純情とは、ついに経験によって傷つくものなのか。それとも、経験により傷つくがゆえに純粋といえるのか。いまや老境のレオ・コールストンが50年前、少年時代の夏休みに起きた人生最大の事件をふりかえる。事件のあらましは途中から想像がつくものの、それでもサスペンスにあふれ、大いに盛りあがる。レオ少年はノーフォークの友人の屋敷でその美しい姉マリアンに出会い、彼女の手紙の配達役を引き受けるうち、いつのまにか運命の歯車に巻きこまれ……というメロドラマ。子どもがいやおうなく、おとなへ成長する通過儀礼を描いた青春小説でもある。いずれも定石どおりだが、おとなの目による人間観察が鋭い。少年同士のふれあいを通じて、子どもは必ずしも善良ではなく、うぶな心にも悪意やプライド、自己顕示欲がひそむという苦い真実がユーモラスに語られ、おとなになるとは、みずからの感情を分析し、現実を冷静に直視できるようになること、との認識も痛切な思いとともに示される。事件当時もさることながら、50年後に舞台を再訪、ふたたび自分の傷と向きあった男の心が切ない。レオは経験により傷つきながらも、少年の純粋さをうしなっていないからだ。黄金時代の幕あけとも思えた、のどかな1900年の夏に起きた悲劇。二度の世界大戦を経たのち、心はあの夏へと舞いもどる。深い余韻がのこる佳篇である。