ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

L. P. Hartley の "The Go-Between" (1)

 ゆうべ、L. P. Hartley の "The Go-Between" を読了。Hartley は、創元推理文庫怪奇小説傑作集2』の第1話「ポドロ島」の作者である。さて、ひと晩寝かせたところで、どんなレビューになるでしょうか。
 追記:その後、映画化されていることを発見しました。ジョゼフ・ロージー監督作品『恋』(1971)です。

The Go-Between (New York Review Books Classics)

The Go-Between (New York Review Books Classics)

[☆☆☆★★★] 無垢とは、純情とは、ついに経験によって傷つくものなのか。それとも、経験により傷つくからこそ純粋な心と言えるのか。ある男が50年前、少年時代の夏休みに起きた人生最大の事件をふりかえる。事件のあらましは途中から想像がつくものの、それでもサスペンスにあふれ、大いに盛り上がる。少年はイギリスの田舎、友人の屋敷でその美しい姉に出会い、彼女の手紙の配達役を引き受けるうちに、いつのまにか運命の歯車に巻き込まれ、というメロドラマ。子供がいやおうなく大人へと成長する通過儀礼をえがいた青春小説でもある。いずれも定番どおりだが、大人の目による人間観察の点ですぐれている。少年たち同士のふれあいを通じて、子供は必ずしも善良ではなく、うぶな心にも悪意やプライド、自己顕示欲がひそんでいるという事実がユーモラスに指摘され、大人になるとは、自分で自分の感情を分析し、現実を冷静に直視できるようになること、という真実が痛切な思いとともにえぐり出される。事件当時もさることながら、50年後に舞台を再訪、ふたたび自分の傷と向き合った男の心が切ない。彼は経験により傷つきながらも、少年の純粋さを失っていないからだ。黄金時代の幕開けとも思えた、のどかな1900年の夏に起きた悲劇。二度の世界大戦を経ながらも、その夏へと心が舞い戻るところに深い余韻がある。