ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Tanis Rideout の “Above All Things” (1)

 昨年のアマゾン・カナダ選ベストテン小説のひとつ、Tanis Rideout の "Above All Things" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★] なにもかも完璧なまでに型どおりの小説だ。愛する妻や子どもたちへの思いを胸に、エヴェレスト初登頂を目ざすイギリスの高名な登山家マロリー。その生還をひたすら願う妻ルース。この設定から容易に想像できる内容があますところなく展開され、意外性はほとんどない。が、おそらくこれ以外に書きようがない、という意味では申しぶんのない仕上がりだ。冒険小説と家庭小説が平行して進み、遭難と訃報というそれぞれのクライマックスにむかってしだいに緊張が高まっていく。頂上アタックのさいに過去と現在がフラッシュバックするシーンなど、まさに想定内。かつ完璧そのものである。ルースの流す涙しかり。荘厳な山岳美や、壮絶な自然の猛威についても定石的な描写である。