ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

William Trevor の “The Story of Lucy Gault” (2)

 これは旧作探訪シリーズの一環。なにしろ2006年ごろ以前の作品は、気が遠くなるほどたくさん読み残している。機会を見つけて少しずつ catch up するしかない。
 さて、William Trevor といえば、ご存じ短編の名手である。ぼくもあの "The Collected Stories" を書棚に架蔵しているが、とにかく大型辞書なみの分厚さに圧倒され、おかげで背表紙は年々、色あせていくばかり。
 が幸い、2009年の "Love and Summer" [☆☆☆★★★] がブッカー賞のロングリストにノミネートされ、遅ればせながら Trevor の世界にふれることができた。内容はもうすっかり失念してしまったが、当時の記事を読みかえしてみると、かなり気に入っていたことがわかる。
 そこでふと、この "The Story of Lucy Gault" を手に取ってみた。こちらは2002年の同賞最終候補作である。きっと "Love and Summer" よりすぐれているにちがいない。
 当てはずれ。読みはじめてしばらくすると、雑感にも書いたとおり、「相当に眠気をもよおす作品」であることがわかり、その評価は最後まで変わらなかった。
 あまりに退屈だったので背表紙を見ると、なんとまあ絶賛の嵐。提灯記事を書くのもいい加減にしろ、と言いたくなった。
 ネタを割らない程度に疑問点を補足すると、ルーシーはなぜ、相思相愛の青年と関係しなかったのか。いちおう説明はなされているものの、「簡潔すぎて」納得できない。ゴヒイキの Iris Murdoch だったら、性格や心理をみっちり書きこみながら、え、これからどうなるの、とワクワクするような物語を仕立てていたに相違ない。その点、William Trevor には「華がない」ですなあ。
 ついでに Graham Greene の "The End of the Affair" を思い出し、ああ、だからこれは「小の説」なんだと気がついた点を、きのうのレビューにまとめておきました。
 とはいえ、人生には、たしかに「偶然のいたずらとしか言いようのない出来事」が起こることもある。それをどう受けとめ、その後いかに生きるかは各人の考え方次第。場合によっては、たんなる偶発事件だったものが、その人の「生き方によって運命的なものになる」こともあろう。本書を読んでわが身に思いを馳せたのは、ただその一事だけでした。