2002年のブッカー賞最終候補作、Rohinton Mistry の "Family Matters"(2002)を読了。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★★] 周知のとおりキリストは隣人愛を説き、マザー・テレサもまた「愛は家族の世話から始まる」と述べた。なぜか。身近な人間を真に愛することが、じつは至難の業だからだ。ゆえに家族の問題とは、書中の言葉を借りれば、「世界のどこへ行っても唯一大切な物語」である。本書を読むと改めてそう思う。パーキンソン病を患い、死期の迫った老父の介護をめぐる骨肉の争いはコミカルで悲惨。家族の深い思いやりにも、お互いにエゴをむき出す修羅場にも同様に胸が詰まる。こうした介護の問題を中心に、貧困やインド独特の宗教的対立も絡みながら、ボンベイに住む夫婦、親子、兄弟姉妹の愛と断絶、妥協と対立がさまざまなかたちで描かれる。隣人たちも存在感たっぷりだ。こっけいだったり、人情味があったり非情だったり、それぞれ一家との交流を通じて涙と笑いを誘い、本書が小説としてのふくらみを増すもととなっている。奇想天外なドタバタ劇で大いに盛り上がったあと、一気にハッピー・エンディングとならないのは作者の非凡の証しだが、反面、終盤でもたつき気味なのが惜しい。ともあれ、「愛は家族の世話から始まる」、「明日はわが身」と思い知らされる秀作である。