これは、つらい小説だ。読めば読むほど、そう思う。
いや、そう思った。じつはもう読みおえている。が、もうひと晩「寝かせて」からレビューらしきものを書きたい。きょうはその下準備だけしておこう。
冒頭は甘いラヴ・ロマンスのようだ。若い男女がビーチで秘密裡に結婚。ぼくはこの場面をざっと読み、これならノリノリで楽しめそうだと軽い気持ちで取りかかった。
第1部のタイトルは "Fates"。複数形が示すとおり、いろいろな運命が提示される。が、いちばん重要なのは、上の若い男女、Lotto と Mathilde の出会いである。Lotto は大富豪の息子でモテモテのプレイボーイ。お遊びが過ぎて高校時代、故郷のフロリダで問題を起こし(その事件も fates のひとつだ)、ニューハンプシャー州の全寮制の学校に転校させられる。
大学に進学後、Lotto は学生演劇のスターとなり、ますますプレイボーイぶりを発揮。やがて最後の舞台が大成功のうちに終わり、その打ち上げパーティーの会場で、それまで面識はあったが言葉をかわしたこともなかった Mathilde を見かける。'In a moment, he'd been made new. His past was gone. He fell to his knee and took Mathilde's hands to press them on his heart. He shouted up at her, "Marry me!" ' (p.38)
その返事が即「イエス」だったというのが Lotto の説明なのだが、真相は伏せておこう。ともあれ、このあたりはほんとうにノリノリで読める。
ところが、最後まで読みおわってからもう一度、上のくだりを振り返り、そして書き写しているうちに、ああ、これは切なくてつらい小説だな、とますます思えてきた。
第1部は Lotto が主人公で Mathilde はその夫人という役回りだが、"Furies" と題された第2部に入ると両者の比重は逆転。Mathilde が主人公で、Lotto はその夫という扱いに変わる。この第2部がすごい。
ううむ、こんな下手くそな粗筋紹介で、はたしてレビューの下準備になっているのかな。じっくり考えなくては。
(写真は、宇和島市寺町界隈の一角、野川にある滑床自然公園の登山口。この石碑は、山好きだった亡父が私費を投じて建立したものだ)