ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Lauren Groff の “Fates and Furies” (1)

 本書は周知のとおり、昨年の全米図書賞と今年の全米批評家協会賞(対象はともに2015年の作品)の最終候補作である。さて、ひと晩寝かせたところでレビューを書けるかどうか。

[☆☆☆★★★] 泣ける小説だ。後半、それも終盤、読めば読むほど胸を締めつけられる。第一部「運命」のテーマは章題どおり運命。それが読んでいる最中はピンとこない。甘いラヴ・ロマンスではじまり、やがて青春小説、ついで四半世紀近い家庭小説となる。大富豪の息子でプレイボーイだが、そのわりに純情な青年ロットが電撃結婚。おかげで勘当され苦難の道を歩む。それなりにおもしろく読める程度と高をくくっていたら最後、意外な展開が待っていた。第二部「怒り」の主人公はロットの結婚相手マチルダ。彼女の視点から前半と同じできごとが新エピソードをまじえながら再現され、ロットの知らなかった真実も露呈。あわせて少女時代から年老いて死ぬまでマチルダの一生も綴られ、恐ろしい怒りが噴きだす。そこではじめて前半のテーマが身にしみてわかる。男と女の出会いと別れという運命だが、そんな決まり文句では片づけられない痛切な思いが秘められている。純情な男を心から愛した女の悲しい運命。過激な性描写もあるものの、それが扇情的な添えものではなく逆にコントラストを生み、切ない女心をぐっと引きたてている点も見逃せない。とにかく、つらい小説である。