ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

David Mitchell の “Number9Dream”(1)

 2001年のブッカー賞最終候補作、David Mitchell の "Number9Dream" を読了。さっそくレビューを書いておこう。 

Number9Dream: A Novel

Number9Dream: A Novel

  • 作者:Mitchell, David
  • 発売日: 2003/02/11
  • メディア: ペーパーバック
 

[☆☆☆☆] 屋久島育ちの青年が、いちども会ったことがない父親を探しに東京へ。およそ単純この上ない本筋から、これほど波瀾万丈で、かつ複雑極まりない物語を仕立て上げるとは、まさに鬼才ミッチェルの面目躍如である。複数の異なる人物、異なる場面を並行して描くと同時に、その現実のなかにべつの映画やテレビゲーム、作中人物の創作した小説、回天特攻隊員の手記、青年自身の夢、回想などを挿入。こうした劇中劇と現実の交錯が生みだす相乗効果は絶大で、リアリズムとマジックリアリズム、フィクションとメタフィクションという技法的な変化と相まって、まるでジェットコースターに乗って見る万華鏡のような世界が展開されている。主役はもちろん脇役から端役にいたるまで、新しい人物が登場するたびに新しい物語が生まれ、しかもそのひとつひとつが各人の人生を端的に象徴。ウイットに富んだ会話が楽しく、「生首ボーリング」のシーンを頂点とする戦慄すべきヤクザの抗争劇に息をのみ、SFともファンタジーともつかぬ不思議な設定に茫然となる。一方、青年のいだく父親や疎遠の母親、亡くなった双子の姉への思い、出会ったかわいい娘への恋心にふとほだされる。青年の宿泊するカプセルホテルに現れた猫やゴキブリ、はたまた最先端のデジタル機器や古民家のたたずまいなど細部の描写も的確そのもの。そうした土台のうえに構築されたのが、冒険ミステリ、SFファンタジー、青春小説、家庭小説、恋愛小説など、さまざまなジャンルのいいとこ取りなのである。本書のタイトルはジョン・レノンの名曲「#9 Dream 夢の夢」に由来しているが、天国のジョンが読めば「これは夢かまぼろしか、それとも現実か」とさぞ驚嘆することだろう。