ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Richard Powers の “Bewilderment”(1)

 今年のブッカー賞最終候補作、Richard Powers の "Bewilderment"(2021)を読了。これは今年の全米図書賞一次候補作でもあったが、そちらは二次で落選。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆] SF仕立てのシングル・ファーザー奮戦記。宇宙生物学者セオは地球外生命体の研究にいそしむかたわら、私生活では妻アリサを事故でうしない、神経過敏でキレやすい問題児の息子ロビンに手を焼いている。せんじ詰めるとそれだけの話だが、個々のエピソードは驚くほど多彩。教育制度やいじめの問題にはじまり、親子で実施する太陽系外惑星の探査シミュレーション、ロビンが治療の一環で参加した最先端の脳科学実験、絶滅危惧種の保護運動家だったアリサに感化され、ふたりが直面した厳しい地球環境の現実。こうした話題が近未来、あの名物大統領が事実とちがって再選され、政治的に一種のディストピアと化した社会で展開されるのだから、あまりに異色で目がくらみそうだ。がしかし、不可能を可能にしようとする試みという点ではどの局面も一致している。なかんずく、超えがたい溝を超えて親子は、人間はほんとうに理解しあえるのかという問題が最重要のはずだが、このあたりどうも突っ込み不足。そのため知的昂奮をおぼえることがほとんどなく、最新の科学知識もただの飾り、目くらましのように思われる。これはやはり上のように、「せんじ詰めるとそれだけの話」である。