ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

NoViolet Bulawayo の “Glory”(3)

 ほぼ1ヵ月ぶりに Isabel Allende の "The House of the Spirits"(1982)を読んでいる。メモを見て粗筋や人物関係を思い出すのに手間どったけど、やっとまた作品の世界になじんできたところ。
 しかし明日は、5回目のコロナワクチン接種を受ける予定。こんども副反応がひどかったら、"The House of the Spirits" は再中断ってことになりかねない。そんな調子でほんとに理解できるのかな。
 閑話休題。表題作はリフレインの多い作品である。極端な例を挙げると、I can't breathe I can't breathe ....(pp.206 - 207)、take-take-take ....(pp.249 - 250)など、ページ一面に同じことばがえんえんと連続。作者としては強調の意図があるのかもしれないが、一語一語じっくり読むひとがいるとはとても思えない。ぼくなんか、「なんじゃこりゃ!」でおしまい。遠慮なく飛ばしてしまった。まったく紙のムダですな。
 ほかにも、Cow mooed, cats meowed, sheep bleated, bulls bellowed, ducks quacked, donkeys  brayed, goats bleated, horses neighed, pigs grunted, chickens clucked, peacocks screamed and geese cackled ― the cacophony reaching deafening levels ....(p.4)など、主語と動詞をいれかえただけという同じパターンのくりかえしは超頻出。いちおう、どれもまめに目を通したけれど、しまいにはうんざりしてしまった。
 ともあれ、こうした叙述上の新工夫(?)は明らかにオーウェルにはなかったものだ。それからもちろん、登場するキャラクターが動物たちという設定にともなうデフォルメにより、「モデルとなったジンバブエの歴史を人間がしるした場合以上にドラマティックな効果が得られている。茶番劇はさらにおかしく、惨劇もさらに恐ろしく、かえって現実の不条理性と残虐性がよく伝わってくる」。なかでも、国防軍の司令官の命令で、息子が斧で父を斬殺する場面など、読んでいて思わずページから目をそむけたくなるほどキモかった(p.235)。
 また、「諷刺の矛先は西欧諸国の旧植民地にたいする搾取の継続や、国内の部族主義にもむけられ、ツイッターやワッツアップなど現代的な意匠がほどこされている点も目新しい」。
 以上が "Animal Farm" との主な相違点だが、こうしてふりかえってみると、いずれも枝葉末節の感はぬぐえない。独裁者が君臨するディストピア、そしてそれを招来する衆愚という本筋からすれば、本書はやはり "Animal Farm"、さらには "Nineteen Eighty-Four" の「世界から一歩も外へ出ていない」といわざるをえない。むろん、(2)でも述べたとおり、才女 NoViolet Bulawayo はそんな批判が出ることを百も承知していたはず。「ほら、ここが新しいでしょ」と、上で指摘した以外の内容についてもどこかで説明している可能性はある。が面倒くさいので調べていない。
 その Bulawayo 女史でも反論できそうにない点をひとつ挙げておこう。本書には、"Animal Farm" における Boxer のように感動的なキャラクターがほとんど登場しない。例外は、上の斬殺シーンで息子に殺される父 SaCetshwayo くらいのものだろう。彼は最初、息子を殺すように命じられ、それを実行する代わり、逆に殺される役を買って出る。つまりその自己犠牲ゆえに胸を打たれるのである。
 Boxer もまた自己犠牲ゆえに感動を呼ぶのだが、彼の場合、あしき体制に従う善人は、よき市民なのか、あしき市民なのか、という政治と道徳にかかわる難問を提出していることはここで詳述するまでもない。
 ところが、SaCetshwayo のほうは数多くのエピソードのなかに埋没してしまい、ディストピアの恐怖を物語るキャラクターのひとり、という役割しか担っていない。 Bulawayo は、善人の自己犠牲からさらに発展する問題があることに気づいていなかったのでは、と思われても仕方あるまい。
 ともあれ、これはやたら長いだけで得るものはほとんどない作品だった。あ、そんなつまらない結論を導くためにえんえん駄文を綴るとは、ぼくもひとのことはいえませんな。

(下は、この記事を書きながら聴いていたCD)

Integrale Musique de Chambre