ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

NoViolet Bulawayo の “Glory”(2)

 この作家、初耳かと思ったら、過去記事を検索したところ、2013年のブッカー賞最終候補作 "We Need New Names"(2013 ☆☆☆★★)の作者だった。

 拙文を読んで、なんとなく思い出した。いい作品だった。これは Bulawayo(1981– )のデビュー作で、彼女はジンバブエ生まれ。ってことはこの青春小説、彼女が故国と移住先のアメリカで実際に体験したできごとをうまくフィクション化したものかもしれない。
 Wiki で調べると、そちらを見ればすぐにわかることなので詳細は省くが、NoViolet Bulawayo はとにかくものすごい才女だ。だからきっと、ほぼ10年の間隔をおいて第2作を上梓するにあたり、それが「オーウェルの二番煎じ」と評されることを計算にいれていたにちがいない。
 いや、才女でなくたって、このぼくだって、人間の代わりに動物たちが出てくるディストピア小説を書こうと思えば、当然 "Animal Farm"(1945 ☆☆☆☆★★)が頭に浮かんでくる。焼き直しだけは避けたい。あの名作を上回るとまでいかなくても、せめてまたべつの観点からテーマを掘り下げ、まったく異なる技法を駆使すれば、読者に新たな感動を与えることができるかもしれない。
 と Bulawayo が考えたかどうかはさておき、出来あがった作品はといえば、「才女才に倒れる」。オーウェルとのちがいを意識するあまり、ちとヒネりすぎたんじゃなかろうか(☆☆☆★)。前作のほうが、伝統的な手法だし話題もオーソドックスだけど、心にストレートに響いてくるものがあった。

 これも Wiki で調べたことだが、ジンバブエは1980年にイギリスから独立。初代首相ロバート・ムガベは1987年に二代目大統領に就任後、2017年に国防軍によるクーデターで失脚するまで強権政治を実施したそうだ。そのかん言論統制や反対派の弾圧など、"Glory" の記述と一致するような事件があり、もっと詳しい史料をひもとけば、本書のエピソードと史実との整合性はさらに確認できるものと思われる。
 こうしたジンバブエ現代史の流れを語るのが本書では動物たちというわけだが、もしそんな設定でなかったら、そしてそれにともなうデフォルメがなかったら、あえて不謹慎を承知でいうと、これは舞台がジンバブエというだけで、あとはよくある話である。
 だからこそ、いっそうヒネらざるをえなかったんだろうけど、そしてその努力がたいへんなものであったことは認めるけれど、「本質的にはオーウェルの世界から一歩も外へ出ていないことに失望」。それだけになおさら、「ヒネりすぎ」が目についてしまった。(つづく)

(下は、この記事を書きながら聴いていたCD)

ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」/スクリャービン:交響曲第4番「法悦の詩」