今年のブッカー賞最終候補作、Shehan Karunatilaka の "The Seven Moons of Maali Almeida" (2022)を読了。Karunatilaka(1975– )はスリランカの作家で、2012年の Commonwealth Book Prize 受賞作 "Chinaman"(2011)でデビュー(未読)。ハードカバー裏表紙のそでには、表題作が his long awaited second novel と載っているが、Wiki によれば、第2作は "Chats with the Dead"(2020)とのこと(未読)。ともあれ、さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 破天荒なマジックリアリズムを駆使した狂乱のゴースト・ストーリーである。1990年、死後の世界で目ざめたスリランカの戦場カメラマン、マーリ・アルメイダが、月が七回昇るあいだ、一週間のうちに、自分を殺した犯人と事件の状況を思い出そうと、霊界と現実の世界をなんども往復。数多くの生者と死者がいり乱れるうちに、虐殺や拷問など、1983年からはじまったスリランカ内戦の恐るべき実態が浮かびあがる。通例、来世とは神の救いと裁きがおこなわれる場だが、ここでは神は不在。代わって善霊が悪霊と戦い、マーリもまた現世における不正を糺そうとする。が一方、彼はゲイのプレイボーイでもあり純情な青年でもあり、そうした個人的な矛盾と混乱が、マジックリアリズムにより生死をさまようことで増幅され、それと同時に、猥雑な愛欲の世界も醜悪な政治の現実も、同じくマジックリアリズムによって極度に誇張され、力づよいシュールな造形美に満ちた壮大なカオスが出現している。ユーモアと毒舌にあふれ、物語的にはアクションありサスペンスあり、作者のサービス精神はまことに旺盛なのだが、反面、想像の翼をひろげすぎて支離滅裂に近い箇所もある。上のようにミステリ仕立てでもありネタは明かせないが、テーマ的に愛と政治のバランスをとりそこねた実験作。どちらか一本に絞ったほうがもっと強烈なインパクトを与えたのではなかろうか。