ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2017年ピューリツァー賞発表(2017 Pulitzer Prize for Fiction)

 あれま、Colson Whitehead の "The Underground Railroad" が、今年のピューリツァー賞を受賞してしまった。昨年の全米図書賞に続いて2冠達成。ぼく自身は、そんなにすごい傑作とは思わなかったけれど、文学にはいろんな見方や評価があっていい。ともかく、去年読んだときのレビューを再録しておこう。

The Underground Railroad: Winner of the Pulitzer Prize for Fiction 2017

The Underground Railroad: Winner of the Pulitzer Prize for Fiction 2017

[☆☆☆★★] アメリカの奴隷制といえば、芸術作品のテーマとしては相当に古い。差別問題ともども、映画や小説のなかで長らく語り継がれ、いまや歴とした伝統文化の一翼を担う素材となっている。その長い歴史に新たな1ページを刻むとすれば、新しい真実の発掘とはいわないまでも、斬新な角度からの取り組み、新工夫が必要だろう。その点、本書はいちおう合格ラインをクリア。従来あまり描かれることのなかった逃亡奴隷に焦点を当て、賞金稼ぎとのあいだに繰りひろげられる、追いつ追われつの逃亡劇に仕上がっている。が、なによりその逃走手段が斬新でユニークだ。現実と幻想のはざまに敷かれた地下鉄道は、隷属から自由へいたる道の象徴として、国家の存立基盤、国民のアイデンティティを再確認させるものと想像する。さほどに奴隷制は、人種差別はアメリカ人の心の宿痾ということだろうが、ひるがえって、ここには再確認こそあっても新発見はない。メルヴィルやフォークナーなど、アメリカの最高の知性が産み出してきた伝統文化に加えるものはほとんど何もない。人間を単純に善玉と悪玉に分けるのではなく、善悪の問題にかんして知的に誠実であること。このメルヴィルの原点に立ち返ってこそ、もはや語り尽くされた感のあるテーマでも、真に新しい物語をつくれるのではないか、と愚考する次第である。