ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Barbara Kingsolver の “Demon Copperhead”(2)

 行きはよいよい、帰りはこわい。ゆうべ、やっとのことで九州・四国旅行から帰ってきた。
 羽田発博多行きの飛行機に乗ったのが10日。台風6号の影響で条件つき飛行ということだったが、ぶじ着陸。博多市内の有名ラーメン店に直行し、長蛇の列にならんで待っていたら、前にいた韓国娘たちがぼくの読んでいた本、Herman Diaz の "Trust"(2022)に興味を示し、Let me see。
 This is this year's Pulitzer Prize winner. とヘタくそな英語でぼくが説明したところ、女の子のひとりが本をもったぼくを写真撮影。にっこり笑って、You're so handsome! とのたもうた。そんな体験は生まれて初めてで、ぼくはすっかりゴキゲンになってしまった!
 さてドラ娘の夏休みに合わせた旅行だったが、ぼく自身の主な目的地は、福永武彦の『廃市』の舞台、柳川。

 木立の間に細い月が懸(かか)って梢や枝を影絵のように黝(くろず)ませていたから、河はただ河明りによってそれと知られるだけだった。(中略)それはもう十年の昔になる。その時僕は大学生で、卒業論文を書くために、一夏をその町のその旧家で過した。(中略)もともと廃墟のような寂しさのある、ひっそりした田舎の町だった。
 
 冒頭の一節である。ぼくが同書を読んだのは大昔で一回だけ。それなのに、その一回の強烈なインパクトがずっと忘れられず、いつかいちど柳川を訪れたいと願っていた。じっさい見物してみると、おそらく中国人団体客がいなかったせいか、たしかに「ひっそりした田舎の町」ではあるけれど、べつに「廃墟のような寂しさ」が感じられるほどでもなく、とりわけ運河周辺はいかにも観光地然としていた。が、ぼくはおおいに満足し、有名なうなぎ屋でせいろ蒸しに舌鼓をうった。

 九州でほかに訪れたのは、太宰府、別府、高千穂。そのあとフェリーで愛媛の八幡浜にわたり、ぼくのふるさと宇和島へ。相変わらず、宇和島風鯛飯がおいしかった。
 と、そこまではよかったのだけど、あとがいけない。ニュースを見ると、台風7号の影響で、15日はなんと東海道新幹線が終日運休。山陽新幹線も岡山~新大阪間が計画運休だという。ドラ娘は急遽予定を繰りあげ、14日のうちに勤務地まで引きかえした。
 のこった家人とぼくは延泊することにしたのだけど、このとき飛行機で帰ろうとは考えつきもしなかった。帰りは娘ともどもJRで、という当初の予定がJRにこだわる固定観念の元だった、としかいいようがない。
 なんとか16日の切符をゲットしたあと、15日は友人宅で歓談。ひさしぶりに市内各所の写真も撮れ、友人お薦めの店で和料理を堪能。けがの巧妙というか、なにごともよしわるしだな、と思った。
 ところがきのうの午後3時、岡山に着いてからが最悪だった。夜の9時過ぎには横浜の拙宅にたどり着けたのが、きょうのニュースを見ると、一種キセキだったかもしれない。
 最悪といったが、それでも、岡山から新横浜まで立ちっぱなしの新幹線の車内で、上の "Trust" をかなり読み進んだ。やっぱり、なにごともよしわるし、なのか。
 それにしても、飛行機を思いつかなかったのは大失敗。聞けば松山空港は、15日も台風の影響がほとんどなかったそうだ。あとの祭りと気づいたとき、ぼくは『点と線』を思い出した。あのトリックを知っているひとは、ぼくのいいたいことがおわかりでしょう。
 閑話休題。ここから表題作の落ち穂ひろいをしようと思ったのだけど、看板に偽りあり。駄文を書きすぎて、もうくたびれた。いまチェックすると、長いピューリツァー賞の歴史のなかで(1918年創設)、二冊同時に受賞というのは今年が初めてのようだ。が、"Trust" のほうが "Demon Copperhead" よりおもしろい。例年どおり、一冊だけでよかったのでは、という気もします。まったく意味のない感想だが、きょうはこれでおしまい。(この項つづく)