やれやれ、ブッカー賞レースでトップを走っていた "Endling"(☆☆☆★★)が第3コーナー(ショートリスト)で失速。おまけに、下馬評の下位グループから3頭も入選に食いこむとは、まったく波乱に近い展開ですな。リストを見て、"Endling" を高く買っていた現地ファンのなかには、もう読まない、と競馬場から出てしまったひともいるようだ。( )内は別の集計結果。
1. Audition by Katie Kitamura(☆☆☆★)
2. Flashlight by Susan Choi(or 4)
3. The Loneliness of Sonia and Sunny by Kiran Desai(or 2)
4. Flesh by David Szalay(or 5)
5. The Land in Winter by Andrew Miller(or 3)
6. The Rest of Our Lives by Ben Markovits
ぼくも "Endling" の落選には驚いたが、さらにガックリきたことに、未読の5冊とも例の場外馬券発売所に在庫なし。東京には店頭で買えそうな書店があるようだけど、わざわざ出かけるのは面倒くさいし、交通費もかかる。
ってわけで果報は寝て待て。遅配や紛失のリスクのある場外発売所を避け、大枚はたいて本場の場内発売所で 2, 3の馬券を買ったところ、もう発送通知があった。場外だとこうはいかない。
さて表題作。アメリカ文学の専門書でも紹介されているほど有名な作品だが、いままで未読だった。たしかに「文学史にのこる秀作である」。
とそう思った理由のひとつは、本書が差別問題を扱った作品にありがちな「黒人被害者即善人、白人加害者即悪人という図式」から脱却し、「女性蔑視、家庭内性暴力、暴行、セックスだけの結婚。こうした性差別が黒人社会の負の要素として描かれ」ていることだ。
近年のピューリツァー賞や全米図書賞、ブッカー賞などの受賞作、候補作にかぎっても、定期的といっていいほど、大なり小なり上の図式が認められるものが刊行されている。
むろんどの作品も斬新な意匠がほどこされ、なかなかみごとに仕上がっているのだけど、根底には図式がかいま見え、ああまたか、と思ってしまうこともある。
その点、"The Color Purple"(1982)はもはや現代の古典といってもよさそうなのに、古い伝統をやぶり、黒人にたいして悪を悪といい切っているところが新鮮である(☆☆☆☆)。
誤解を恐れずにいうと、弱者や被害者は弱者や被害者であるがゆえに善人であるわけではない。彼らも人間である以上、完全無欠の存在ではありえない。「要は悲喜こもごも、黒人も白人同様、善悪ないまぜの独立した存在として生きている。すなわち黒人は、政治的のみならず人格的にも自由で白人と平等なのである。とりわけ『善悪ないまぜ』という点に意味のある『平等宣言』。それが本書の画期的な作品たるゆえんだ」。
上の専門書は本屋で項目をたしかめただけなので、「平等宣言」への言及があるかどうかはわからない。いや、そもそも、ぼくはとんでもない勘違いをしているのかもしれない。お粗末さまでした。(了)
(最近、A3ポスター版だが『真珠の耳飾りの少女』を額装、デスク右横の壁に設置した。心が落ちつきますね。部屋のどこからながめても、少女の目がぼくを見つめているように見えるのは錯覚かな)
