ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Elizabeth Berg の "The Year of Pleasures"

 内職の仕事も少し片づいたが、まだまだ気が抜けないので今日も昔のレビュー。たしか一昨年の秋に書いたものだ。

The Year of Pleasures: A Novel

The Year of Pleasures: A Novel

[☆☆☆★★★] 久しぶりにエリザベス・バーグの小説を読んだが、期待どおり、充分に計算された完成度の高い作品だった。主人公は、夫を癌で亡くしたばかりの妻。それなのに題名が『喜びの年』とある以上、精神的危機の克服というかヒーリングが主題だとすぐに分かるのが玉に瑕だが、それでもバーグの筆力のおかげでどんどん頁をめくってしまう。何よりも感動を生むのは、日常の些細な出来事をうまく組み合わせることで、プラス思考とマイナス思考の間を往復する主人公の心情がとても自然に描かれていることだ。ふと目にした景色や、友人知人との会話などによって大きく揺れ動く感情。再生への希望と交錯して語られる夫の思い出、伴侶を亡くした悲哀、寂寥感、不安…。二転三転する展開に、「想定内」の内容だと思いつつも、つい主人公に同情して一喜一憂させられる。「愛する人とのつながりは、生前よりも死後に深まるものだ」という言葉を目にしたときは、不覚にも落涙しそうになった。結末も別に意外ではないが、そんなことはどうでもいい。家族や親友を失った人だけでなく、すべての傷ついている人たちにお薦めしたい作品である。英語は標準的で読みやすいが、内容を反映した静かな筆致で、微妙なニュアンスをもった深みのある表現が多い。

 …エリザベス・バーグは何冊か翻訳が出ているし、慈愛に満ちたハートウォーミングな作風から、日本でも特に女性を中心にファンが多いようだ。そのわりには刊行点数が少ないし、秀作の本書もいまだに無視されているのは、やはり出版不況のせいだろうか。人生の重大な問題を深く掘り下げるタイプの作家ではないが、それだけに、精神的に疲れているときなどに読むとホッとする。どこか奇特な出版社が肩入れしてくれるといいのだが…