Marianne Wiggins の "The Shadow Catcher" を読了。なかなかの力作だが、今年の全米書評家協会賞(全米批評家協会賞)を逃した理由も何となく分かった。

- 作者: Marianne Wiggins
- 出版社/メーカー: Simon & Schuster
- 発売日: 2008/06/03
- メディア: ペーパーバック
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…歴史編のほうは、時間の流れに沿ったごく普通の物語だ。女が男と出会って恋に落ちるくだりなど、よくある話ながら面白い。が、何しろ男は家を飛び出したまま長いあいだ帰ってこないので、周囲の人間との絡みが少なく話が進まない。壮大な嘘八百の物語を仕立てあげることも可能だったはずだが、男の不在の理由が示されるのは終幕に入ってから。テーマの整合性はあるものの、魅力的な展開に欠ける結果ともなっている。
その弱点を補っているのが現代編で、こちらは冒頭の空を飛ぶ夢に始まり、ロス周辺の地層の話や、上に紹介した大平原での空漠たる思いなど、さまざまな角度からこのノンフィクション風フィクションを盛りあげている。作者が「父親」の謎を解明する過程で、「男はなぜ家族を捨てて旅立ったのか。そこにはどんな理想の追求があったのか」というテーマが浮かびあがる展開も実によろしい。
が、残念ながら、その問いかけに対する最終的な答えは示されない。孤独に死んだ人間の心境が残された家族に分かるわけはないので、謎が謎のまま終わるのは当然かもしれないが、もう少し踏みこんで「理想の追求」を書いてもよかったのではないか。
以上、この "The Shadow Catcher" は、全米書評家協会賞だけでなく、ピューリッツァー賞まで受賞した Junot Diaz の "The Brief Wondrous Life of Oscar Wao" とは正反対のような小説である。ディアズのほうは、恋とセックス、暴力を題材に「壮大な嘘八百の物語を仕立てあげ」ているが、ウィギンズは誠実に魂の物語を書こうとしている。その努力は大いに認めるのだが、いさかか誠実すぎてハッタリがない。テーマとしてはディアズよりずっと深い作品なのに、突っこみが足りない。それゆえ賞レースで割を食ってしまったものと思われる。最終候補作になった時から山勘で期待していただけに残念だ。