ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Elfriede Jelinek の "Women as Lovers"

 『ピアニスト』に続いて、3年前の2月ごろだったか、ぼくとしては洋書のレビュー第2弾を書き、アマゾンに投稿(その後削除)したのが、同じくイェリネクの "Women as Lovers" についてだった。

Women As Lovers (Masks)

Women As Lovers (Masks)

[☆☆☆★] 長大な散文詩のつもりで接すると、それなりに楽しく読める。ユーモラスな表現、皮肉な描写が随所に見られ、それらを通じて浮かびあがる、女性の社会的地位、恋愛と結婚の実態、男のエゴイズムなどに、なるほど、と苦笑させられるかもしれない。ただし、作者は人物造型や心理描写、物語性といった要素を度外視しているので、その点は期待しないほうがいい。文体としては前衛的な作品に思えるかもしれないが、既にフォークナーやマルケスの洗礼を受けている読者なら、それほど衝撃は受けないだろう。要するに、これが果たしてノーベル賞受賞に値する作家の作品なのか、という疑問が、評者には最後まで消えなかった。

 …人生の真実について深く考えさせる本ではないし、さりとて技法的に斬新なわけでもない。それは "The Piano Teacher" についても当てはまる。べつにノーベル賞の選考理由など読みもしなかったが、ともかく久しぶりにノーベル賞作家の作品に接したぼくは、トーマス・マンやT.S.エリオットなど、20世紀の巨人たちからずいぶん遠いところへ文学が進んで?しまったんだな、と思ったものだ。その後、日本にも熱狂的なイェリネク・ファンがいることを知人に教えてもらったが、それでもやはりぼくにはピンとこなかった。