ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Elfriede Jelinek の "The Piano Teacher"

 もっか多忙をきわめているので、例によって昔のレビューでごまかそう。ご存じ04年のノーベル賞作家、イェリネクの『ピアニスト』だ。

The Piano Teacher (Serpent's Tail Classics)

The Piano Teacher (Serpent's Tail Classics)

[☆☆☆★★] 映画は未見だが、現象的には映画の題材にしやすい事件が起こる。それは一読、ポルノと言ってもよいほどの激しい愛のドラマだ。しかし、そのドラマを従来の伝統的な手法で描いたのでは、本物のポルノと堕してしまうのを恐れたのか、作者は、比喩や詩的イメージを駆使した心理表現を展開する。その技法はさながら、バッハのオルガン曲におけるポリフォニーのようだ。だが、それが複雑な多声部を有するだけに、肝心な主題が伝わりにくい側面もある。あるいは不毛な愛、現代人の疎外がテーマかもしれない。古びたテーマだけに、筆者の手法にも存在意義はある。しかし、その技法ゆえに物語の展開はぎこちないとも言える。

 …4年前の今ごろ、「愛のポリフォニー」と題してアマゾンに投稿、その後削除したものだ。本書を読むまで、ぼくは洋書のレビューなど書いたこともなかったが、なぜかふと思いついてパソコンに向かってしまった。「ノーベル賞受賞」の謳い文句に惑わされたのかもしれない。
 「ホメているのか、ケナしているのか、よく分からないレビューだね」と知人に皮肉られたものだが、ぼくとしては、何だ、こんな小説でノーベル賞かという思いがあった。その理由はまた後日。