仕事が超多忙になり、"2666" は小休止。そこで今日は3年前だったか、「インドの光と影」と題してアマゾンに投稿、その後削除したレビューでお茶を濁しておこう。1980年のブッカー賞最終候補作である。ちなみに、アニタ・デサイは周知のとおり、キラン・デサイの母である。本書を春に読んだら、秋に娘のほうがブッカー賞を取り、とてもびっくりした憶えがある。
[☆☆☆★★★] 激動のインド現代史を背景としながらも、決して波瀾万丈の物語ではなく、家族の絆について深く考えさせられ、静かな感動を呼ぶ佳品。主要な人物は、性格も考え方も、そして人生行路までも対照的な姉妹。両端の2章では十年ぶりに再会した姉妹の
心理的葛藤が詩情豊かに、中間の2章では子供時代から青春時代にかけての出来事がノスタルジックに描かれる。そこには家族の断絶と和解というテーマが一貫して流れているが、その背景にあるのはインド・
パキスタンの分離独立、
ガンジーの暗殺という動乱の政治状況だ。しかしながら、本書は
政治小説ではない。独立と分裂というインドの光と影と重ね合わせるように、深い傷を心に秘めながら和解への道を模索する家族の光と影が描かれている。インドならではの、それでいて普遍的な物語に仕上がっているのが本書の美点だろう。英語も陰影に富んだ表現が多く、じっくり味わうのに適している。