ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Hannah Tinti の "The Good Thief"(1)

 やっと読み終えた。例によって今までの雑感をレビューにまとめておこう。

The Good Thief

The Good Thief

[☆☆☆★★] 09年アレックス賞受賞作のひとつ。舞台は19世紀のニューイングランド。修道会の経営する孤児院で育った少年が兄と称する詐欺師に引き取られたあと、窃盗やインチキ商売、墓荒らし、あげくの果てに暴行や殺人と数々の事件に巻きこまれる。少年は物心ついたときには左の手首から先がないものの、本や小物をくすねる早業の持ち主。根は優しくて純情だが度胸もあり、次第に詐欺師の仕事を手伝うようになる…。暖炉の煙突から突然小男が出てきたり、墓から掘り出した死人が息を吹き返したり、次から次に目まぐるしく起こる事件がかなり面白い。そのつど少年の立場は二転三転し、まったく先の読めない冒険物語である。まさしく数奇な運命に翻弄されるとしか言いようのない少年だが、孤児院時代の仲間や下宿屋の女主人など、最初は端役に過ぎなかった人物たちでさえ、あとで意外な形で少年と結びつく。求心力を発揮するのは少年の出生の秘密だが、このあたり、八方破れの展開をやや強引にまとめすぎているし、少年がいろいろな冒険を通じて成長するというお決まりの通過儀礼がないのも寂しい。が、終幕寸前までスリル満点で大いに楽しめる。会話でブロークンな表記が見受けられる点を除けば、英語は平明で読みやすい。