今年のブッカー賞最終候補作の一つ、J.M. Coetzee の "Summertime" をやっと読みおえた。おとといの雑感と似たり寄ったりになりそうだが、さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★] 作者と同名だが物故した
ノーベル賞作家の雌伏時代を描いた伝記小説。
クッツェーの旧作も出てくるので、フィクションの体裁を取った回想録と思われる。若き詩人作家
クッツェーにゆかりの深い人物たちとのインタビューを中心に、作家自身の手記をまじえた構成で、女性と何度か関係しながらも、同居する父親もふくめ、基本的には他人と心の交流を断った、あるいは断たれた、愛とは無縁の孤独な人物像が次第に浮かびあがる。最初の3人の女性とのすれ違いは、のちの有名作家を不器用で哀れなピエロとして戯画的に描いたもの。後半、アフリカ原住民でもなく、さりとてほかの南ア白人とも相容れない
アウトサイダーとしての立場が孤独の遠因らしいとわかる。外側からの視点による内面の再構成、フィクション化した客観的な自己分析という手法は買えるが、不確かな
アイデンティティ、愛の不毛というテーマは平凡。タイトルから期待するほど印象的なエピソードが乏しいのも減点材料。難易度の高い単語も散見されるが、英語は総じて標準的で読みやすい。