ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The Children's Book" 雑感(5)

 ヴィクトリア女王崩御は1901年。つまり世紀の変わり目だが、これを境にイギリスは黄金時代から「銀の時代」へと移り変わった、という説明が第3部の冒頭にある。章題もずばり 'The Silver Age' で、その初期には黄金時代、言い換えれば当時の人間にとっての子供時代への郷愁が認められ、ピーター・パンに代表される、大人も読む童話が数多く出版されたのだとか。
 これは、タイトルどおり子供たちが何人も登場する本書の時代背景としてわかりやすい説明だし、中心人物のひとり、女流童話作家の Olive の作品がいくつか劇中劇として挿入される必然性をも生みだしている。さらに言えば、ハリー・ポッター・シリーズが引き金となった昨今の世界的なファンタジー・ブームを理解するためのヒントが得られるかもしれないし、バイアットの創作意図もひょっとしたらそこらへんにありそうな気もする。
 ただ、本書の第2部で描かれた「黄金時代」とは、ただもう栄耀栄華を誇る光の時代ではなく、前回も書いたとおり「光と影のコントラストが鮮やかな時代」である。そのコントラストを体現するかのように、ここには「表と裏の顔、虚像と実像をあわせもつ人物」、要は秘密を隠しもつ大人たちが数多く登場する。そしてその秘密を発見するのが子供たち、というのが第2部の大きな流れである。
 この流れはいわゆるイニシエイションもの、つまり、うぶな青少年が何らかの苦しい体験を経ることによって否応なく大人へと成長する物語といちおう軌を一にしているが、それでも本書を単純なイニシエイションものとして片づけることはできない。ひとつには、少なくとも中心的な役割を果たす子供たちがみな、純真無垢な側面もある一方、何らかの欲望欲求をもっているからで、事実、ある子供など 'double identity' を有する存在として描かれているほどだ。その二重性は具体的には、裕福な家庭に育ちながら親には内緒でアナーキズムへと傾斜することを指す。これは結局、大人たちと同様、子供たちにも秘密があり、光と影のコントラストという時代精神を体現している者がいる、ということになるだろう。
 さらには、大人の秘密を知ることによって、それまでの平穏無事な人生が一変するものの、表面的には何事もなかったかのようにふるまう子供もいる。これまた「表と裏の顔」という二重性の典型例であり、本書が「単純なイニシエイションもの」とは性格を異にするゆえんでもある。
 それより何より、本書は子供たちが大人の秘密を発見し、大いにショックを受けるところでは話が終わらない。今週前半は快調に読み進んだものの、昨日もおとといも仕事に追われてスローダウン。ボチボチ読んでいるうちに冒頭で述べた第3部に突入したが、話の流れもひと休みといったところ。つまりこの先、まだまだ大きな仕掛けが隠されていそうな気がする。さて、どうなるんだろう。