ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Emma Donoghue の “Room”(1)

 昨日は結局、小人閑居して不善を為すで、終日ダラダラ過ごしてしまった。明けて今日は今年のブッカー賞最終候補作のひとつ、Emma Donoghue の "Room" に取り組み、何とか残り3分の2を読了。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

Room

Room

[☆☆☆★★] 子供は成長するにつれ、その小さな世界を少しずつ広げ、新しい現実を徐々に発見していくものだが、本書はその過程を超倍速で再現した作品と言える。前半はほとんどすべて、天窓しかない小屋の狭い部屋の中だけが舞台で、主人公はそこで若い母親と一緒に暮らしている幼い少年。室内にあるものを巧みに利用して行なうゲームなどの「出来事」が終始一貫、少年の立場から物語られる。時折母親を訪ねてくる男を除けば外部との接触はいっさいない。男の訪問中、クローゼットの中で過ごす少年の孤独な心がたまらなく切ない。室内の世界しか知らない少年の現実認識を改めようと母親が試み、子供らしい抵抗に出会って生じる葛藤も読みどころのひとつ。やがてこの異常な状況から次第にサスペンスが高まり、心臓をぐっとわしづかみにされるような事件が発生する…。後半は要するに「超倍速で再現」された子供の成長過程であって、少年が心と体でさまざまな痛みを味わう一方、家族の愛情につつまれながら「新しい現実を徐々に発見していく」姿が描かれている。自分の子供時代を思い出し、身につまされる読者も多いことだろう。古びたテーマだが、特異な舞台を設定することによって読みごたえのある作品に仕上がっている。語り手が子供ということで英語はブロークンだが読みやすい。