ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Emma Donoghue の “Room”(2)

 表紙を見ると、「一気に読むべき本」との Audrey Niffenegger の評言が…なるほど、うまいことを言いますなあ。ひるがえって、最初の3分の1をダラダラ読み、残りを一気呵成に読んだぼくは何て言えばいいんだろう。
 前半は間違いなく面白い。ところが、後半は作者の意図が透けて見え、そのテーマに共感できる人なら胸を締めつけられるかもしれないが、ぼくのようにヘソ曲がりだと、透けて見えることにいささか興ざめしてしまう。それゆえ、「率直に言ってこれは受賞は厳しいかも」という当初の直感どおりの結論である。
 William Hill のオッズによると相変わらず2番人気だし、今日現在、アマゾンUKのフィクション部門でも56日間、ベストセラー100位以内を堅持。まあ、こういう単純明快な本が売れるのはよくわかるし、ぼくもわざとケチをつけているつもりは毛頭ないのだが、何しろ「文学性」を重んじるはずのブッカー賞のことだ。たとえば去年栄冠に輝いた "Wolf Hall" のように、多少の不満はあっても知的興奮を呼びさます作品こそショートリストに選ばれるべきではないのかな。
 その点、David Mitchell の "The Thousand Autumns of Jacob de Zoet" が落選したのはいまだに腑に落ちない。これで今年の候補作を読むのは通算8冊目だが、ぼくの独断と偏見によれば、Mtichell と Tom McCarthy の二人の作品がまあ頭ひとつ抜きんでいて、本書や Peter Carey の "Parrot and Olivier in America" は選外でもよかったのではないかと思う。
 ただし、結末は泣かせる。一読した瞬間、大林宣彦監督の「転校生」を思い出した。ぼくも田舎に帰るたびに、小学校の2年生まで住んでいた長屋の前をチャリで通ることにしている。天井裏だけでなく表もネズミがちょろちょろ走っていたオンボロ長屋で、一度だけ遊びにきた女の子に「○○くんの家は汚いね」と言われたことも(ぼく自身は記憶にないのだが)あるらしい。そんな子供時代の体験が懐かしくよみがえってくる作品であることだけは確かなようだ。ああ、あのころからぼくはいったい何をしてきたんだろう…