予定よりずいぶん遅れてしまったが、今年のブッカー賞最終候補作のひとつ、Howard Jacobson の "The Finkler Question" をやっと読みおえた。例によってさっそくレビューを書いておこう。
[☆☆★★] 愛と死にまつわる予言にはじまり、それぞれ妻を亡くしたばかりのユダヤ人の友人ふたりと旧交を温めた男が追いはぎに襲われる。そこまではまずまず面白い。が、ラヴロマンスなりミステリ仕立ての展開になるのかと思いきや、話はかなり退屈なユダヤ人論へと流れていく。イスラエルによるガザ侵攻を背景に、三人の住むロンドンでユダヤ人迫害事件も起こるなか、今日、ユダヤ人であることには、いったいどんな誇りや意味があるのだろうか。夫婦の愛情の歴史や不倫、同棲、男同士の友情なども話題になるが、それはいわば刺身のツマ。中心はあくまでも、いまや憎悪の対象でしかない(と三人が感じている)ユダヤ人の現状と、その存在意義にある。ところが、こうした問題へのアプローチが政治的な観点にとどまっているため、差別する側の心理と、差別される側の苦しみを描くことによって導かれるはずの、人間性にかかわる真実がさっぱり見えてこない。ゆえに退屈千万。結末から冒頭の予言をふりかえると、あれはいったい何だったのかと疑問に思ってしまう。凡作である。