今日は第2部を読んでみた。相変わらず快調で、読めば読むほどますます気に入っている。個人的な趣味だけで言えば Tom McCarthy の "C" より好きな作品だ。が、小粒なのでいちおう対抗馬にしておこう。それゆえ、もしこれが栄冠に輝くようなら番狂わせと言えるかもしれないけれど、ぼくとしては何の異存もない。あ、まだ第3部を読んでいないので暫定的な意見ですが。
主人公は第1部と同じく南ア共和国の白人青年 Damon。青年でいいんだろうな、初めて登場したときから何年もたっているけれど。彼はこのパートでは終幕を除いて終始、旅をつづけている。ジンバブエ、マラウィ、タンザニア、ケニア、スイス…。途中で知りあったスイス人の双子の兄妹が主な旅の仲間だが、今回 Damon は相手との結びつきをいっそう強く意識している。激しく燃えあがることこそない、という点では基調はやはり沈黙と静寂にあるのだが、その底に流れている感情はかなり鮮明だ。それは愛である。
ぼくはこのパートを読みながら、本書は最初から旅行記の形式を借りて現代人の孤独と愛を描いたものかもしれないな、と思いはじめた。Damon には生活拠点がなく、彼はいわば根無し草のように各地を転々としている。見知らぬ人間と一緒に見知らぬ国の見知らぬ街を旅してまわり、見知らぬ部屋に泊まる。出会った相手とは friendly だが distant な関係。その中で一人、気にかかる人物がいる。が、それも激しい愛ではなく、距離をおいたものだ。しかしまた一方、時折、強い衝動に駆られることもある。
その愛に不安と緊張、焦燥、悲哀、喪失感、空虚感など、さまざまな感情が入り混じり、男は相手を愛しながら今日も孤独に生きている。あ、正確には何年もたってからの回想なのだが、とにかくそんな生活、人生だ。これって、ぼくには現代人の一面そのもののように思えてならない。いや、そう思うぼくがネクラってことかな。