今日は職場の忘年会だったが、その行き帰りに Tracy Chevalier の "Remarkable Creatures" を読みおえた。先週までしばらく、ニューヨーク・タイムズ紙の Trade Paperback 部門ベストセラー・リストに載っていた話題作である。また同リストに復活することもあるだろう。
[☆☆☆★★] 19世紀初頭、
英仏海峡に面した小さなリゾート地で魚竜や首長竜などの化石を次々と発見、古生物学の研究に大いに貢献した女性メアリー・アニングの伝記小説。メアリーと、同じく実在した友人のエリザベスが交代で語り手となり、断絶をはさみながら続いた2人の友情が描かれる。主役はあくまでメアリーだが、エリザベスの起用が本書を大いに盛りあげていることは明らかで、貧しい家に生まれた娘メアリーの化石に対する純粋な情熱が胸を打つのも、やはり化石の採集家となった
中産階級の婦人エリザベスの視点があればこそ。身分や男女の格差から生じる軋轢、化石採集を異端視した世間の中傷、万物の創造主である神と絶滅種をめぐる宗教上の問題などを通じて、当時の社会状況をリアルに浮かびあがらせている点に
歴史小説家としての手腕が光る。化石への情熱と2人の友情が静かに脈打っているうちに突如、熱くほとばしる瞬間がいくつかあり、定石ながらロマンスが火花を散らす場面もふくめて思わず引きこまれる。持つべきものは友人かな。淡々とした筆致ながら味わい深い英語も印象的である。