ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Meagre Tarmac” 雑感

 今週は Clark Blaise の短編集 "The Meagre Tarmac" をボチボチ読んでいた。このところオカタイ長編小説が続いたので、積ん読の山の中から組しやすそうなものを選んだつもりだったが、電車やバスの中で1日1話が関の山。今日も仕事から帰ったあと読もうと思ったが、舟をこぐばかりで一向に進まない。歳ですなあ。
 これは昨年のギラー賞一次候補作で、ショートリストには残らなかったものの、現地カナダでの評判はかなりよかったようだ。巻末の顔写真を見ると Clark Blaise は明らかに白人だが、各短編の主人公は今のところ、いずれもインド系アメリカ人というか、アメリカに移住したり、アメリカとインドを往復したりしているインド人ばかり。著者紹介によると、Blaise の奥さんは Bharati Mukherjee というアメリカの作家とあるので、この奥さんが本書の取材源なのかもしれない。
 作風は、去年の全米図書賞最終候補作で、今年の全米批評家協会賞の最終候補作にも選ばれている Edith Pearlman の "Binocular Vision" とちょっと似ている。日常生活で起こる小さな出来事を淡々と描くうちに、やがて最後、ふっと主人公の感情が水面に浮かびあがり、一気に波紋が広がるというパターンだ。格別に深い感銘を受けるわけではないが、人生の一瞬を鮮やかに捉えたいかにも短編小説らしい味わいで、なかなかいい。ただ、Pearlman のほうがもっとよかったかな。
 もう少し詳しく書くと、インドとパキスタンの分離独立から現代にいたる各主人公の家族の歴史を背景に、親兄弟や自分自身がアメリカで受けたカルチャー・ショックや、インド国内の大家族における骨肉の争いなども織りまぜながら、あるショッキングな事件に出くわすことによって万感の思いが胸をよぎる。その感情表現が「間接話法」と言うのか、行間をじっくり読ませるような書き方で、そこが「いかにも短編小説らしい味わい」です。