ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Chris Fabry の “Almost Heaven” (1)

 昨日がぼくには連休初日。といっても、買い物や家の前の掃除(道路をはさんで公園があり、桜が美しいのはいいのだが、散ったあとが大変)に追われ、本書を読みおえたのは夜半になってからだった。去年のキリスト教図書賞最優秀小説賞 (Christian Book Award for Fiction) の受賞作である。

Almost Heaven

Almost Heaven

[☆☆☆] 数々の試練や苦難を乗りこえて生きるキリスト教信者の姿を描いた感動的な小説…と言いたいところだが、信者以外の読者にもその感動が伝わるかどうかはちょっと怪しい。たしかに山場はいくつかある。ヴァージニア州の田舎町で生まれ育った主人公ビリーが洪水で家を流されたり、ビリーに思いを寄せる女性が暴漢に襲われたりする場面はサスペンスフルだし、ビリーが自宅で開設したラジオ局がやっと軌道に乗り、そのお祝いに町の人々が駆けつけるくだりなど、思わずホロっとさせられる。が、一難去ってまた一難、しかし苦労の甲斐あって、という展開がいかにも図式的で、断片的な山場をつなぎ合わせたものにすぎず、かつ描写も平板。一方、ビリーを見守る天使が登場し、本編の概略を説明するなかで悪魔と善悪を論じたり、善なる神がなぜ悪の存在を許し、不要な試練を人間に課すのかと疑ったりするのだが、これまた紋切り型の論理で突っこみ不足。本編ともども、読者を神の賛美へと導こうとする意図が見え見えで、こういう物語を読んで感動するのは信者だけ、という気がする。英語はごく標準的で読みやすい。