ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Round House” 雑感

 今年の全米図書賞候補作、Louise Erdrich の "The Round House" を読んでいる。まだハードカバーしか出ていないので、ふだんペイパーバック・リーダーのぼくは少しためらったが、数年前に "The Painted Drum" でノックアウトされたことを思い出し、新作の出来ばえはどうだろうと興味がわいた。
 ぼくにしては珍しくシノプシスをちらっと読んでいたので、冒頭の事件のことは知っていたが、それにしてもいきなり引きこまれた。舞台はノースダコタ州の田舎町で、居留地に住むインディアンの少年 Joe が主人公。美しい母親が何者かにレイプされ、平和な家庭が突然、怒りと悲しみの場になってしまう。やがて Joe を気づかう友人たちが情報を仕入れ、部族の宗教儀式がおこなわれる神聖な Round House がどうやら犯行現場らしいと判明。Joe たちは建物と周辺を捜索し、手がかりの遺留品を発見する。また、部族裁判所の判事である父親から、昔の事件のことで逆恨みをしている人間が犯人かもしれないと聞き、友人たちともども、その「容疑者」の行動を監視しはじめる。
 このあたり、何やら少年探偵団といったおもむきで、当初の息苦しい緊張の連続とは異なり、少年たちのコミカルなドタバタぶりをはじめ、いかにも青春小説らしい味わいがある。Joe は純情で少年らしい正義感の持ち主だが、その一方、叔母のデカパイも気になって仕方がない。そんな愉快なエピソードもまじえながら、少しずつ事件の謎が解かれていく。
 つまり当初は青春小説、ミステリ、それからもちろろん、傷ついた母親と、心を痛めた父親と少年の織りなす家庭小説といったところだ。Louise Erdrich は名文家としても知られるが、たしかに力のある緊密な美しい文章で、しかもストーリーテリングがうまい。少年たちと「容疑者との対決」シーンなど、息をのむばかりだ。
 じつはもっと先へ進んでいるのだが、今日は風邪気味ながら晩酌デー。これくらいにしておこう。