ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Bernardo Atxaga の “Seven Houses in France” (2)

 いささか旧聞に属するが、帰省中にコスタ賞部門賞の発表があり、最優秀長編賞は Hilary Mantel の "Bring up the Bodies" が受賞。ブッカー賞とのダブル受賞は、コスタ賞がまだウィットブレッド賞だった当時、2003年の "Vernon God Little" 以来ではないか。(ただし、同書は同賞の最優秀新人賞)。
 ぼくに言わせれば、"Bring up the Bodies" は "Wolf Hall" の二番煎じで、そんなにいいとは思わなかったけれど、文学にはいろいろな見方があるとも思うので、ぼくには見えなかった美点もきっとあることだろう。なお、今年のコスタ賞最優秀新人賞は、Francesca Segal の "The Innocents" だった。

The Innocents

The Innocents

  "Seven Houses in France" に話をもどそう。これもけっこうおもしろかった! 原作が出たのは2009年で、英訳は2011年刊。パブリシャーズ・ウィークリー誌以外に、去年の年間ベスト作品に選んでいるところはないかもしれない。意外な拾い物といったところだろうか。
 「3つの謎」のうち、いちばん最後に解けたのはタイトルの意味である。舞台はベルギー領コンゴなのに、それがフランスとどう結びつくのか。べつにたいした謎でもないが、わかってみると、ははあ、なるほどね、と納得。
 射撃の名人である青年将校と、彼に恨みをいだく老中尉との確執が最大の山で、2人もふくめた各人物の「心中に渦巻く葛藤や煩悶が時にコミカルで読みどころ」。それを楽しんでいるうちに、2人の対立の意味もわかる(と錯覚できる)。ぼくはそれを「善と悪のドラマ」と要約したが、図式的なパターンではないところが大いによろしい。
 それにしても、今回の帰省は、本書のほかに Andre Maurois の "Climates" も読めて充実した毎日だった。通勤快読本、バカにはできませんな。