ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Zadie Smith の “NW” (2)

 Zadie Smith を読むのは本書で2冊目。恥ずかしながら "On Beauty" は未読だが、デビュー作の "White Teeth" なら読んだことがある。大昔の話で中身はすっかり失念してしまったが、エクセルに記録している読書メモによると、「カオスの街ロンドンの大河ドラマ」。なるほど。なんとなく印象だけは思い出した。たしか、かなり長い小説だったのに、クイクイ読める度合いは抜群によかったはずだ。
 それにくらべ、この "NW" はしんどい小説で、クイクイ度はかなり落ちる。理由は雑感やレビューで述べたとおり、ぼくの力不足もあってまず語学的にむずかしめだからだ。それから、「テーマも当初つかみにくい」し、つかんだ(と錯覚した)あとでも問題がある。ぼくは読んでいるうちに、これは「まさに人生そのもの」だなと思ったが、と同時に、人生にはここに提出されていない要素もたくさんあるし、小説の創作という点でもこれでいいのかな、と考えこんでしまった。
 たとえば、だれでも自分の人生をふりかえると、それは一面、「筋書きも条理もあるかなきか、混沌として雑然とした世界」に思えるかもしれない。が、多少なりとも粗筋を書こうとしたり、条理を求めようとしたりしたこともあるはずだ。その努力が壁にぶつかったとき、「自分は何者なのか、人生に意味はあるのか、といった実存の問い」が生まれる。
 ここまでは "NW" の世界とおなじなのだが、人生における筋書きとか条理といったものをもう少し具体的に述べると、自分の求める理想や信じる価値観、それと他人の理想や価値観との衝突という問題もかかわってくると思う。そういった問題をもっとはっきり書かないと、ほんとうは「人生そのもの」とは言えないのではないだろうか。
 ただし、これはないものねだり、かな。市井の人びとの日常生活、悲喜こもごもをありのままに描きだす。本書の眼目のひとつは明らかにその点にあり、それ以外の要素がもの足りないと言っても、あまり意味がないような気もする。
 小説の創作の問題についてはまた後日。