ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Zadie Smith の “NW” (1)

 Zadie Smith の最新作 "NW" を読了。2012年の全米批評家協会賞最終候補作で、ニューヨーク・タイムズ紙、ガーディアン紙、タイム誌などでも年間ベスト作品に選ばれている。さっそくレビューを書いておこう。

NW

NW

Amazon
[☆☆☆★★] いまや多民族都市のロンドン北西部。その住民たちが交代で主役をつとめる輪舞形式の長編だが、実質的には短い生活スケッチ集、人生の断片集といったところ。ジャマイカ系の女弁護士ナタリーの出番がいちばん多いが、完全な主人公とはいえず、一貫したストーリーもほとんど皆無。さながら組み立て前のジグソーパズルのようで、テーマも当初つかみにくい。ただ、すこぶる饒舌な文体に迫力があり、引きこまれる。ひるがえって、もし混沌として雑然とした世界こそ人生なのだとすれば、ここに描かれている人間関係の断片、日常生活のひとこまはまさに人生そのものである。夫婦や親子、恋人、友人など、どの人物もそれぞれ悩み、苦しみ、悲しみ、笑い、愛し、憎みながら生きている。なかには胸をえぐられる場面もあり、その悲喜こもごも、愛憎からは、自分は何者なのか、人生に意味はあるのか、といった実存の問いも聞こえてくる。恋愛感情のもつれと不条理な殺人を扱った第二部に比較的まとまりがあり、ナタリーの半生を綴った第三部がもっとも物語性に豊んでいる。人生に統一した筋書きがないのは事実として、その事実をありのままに示した本書にも、パズルの完成を求める意図が散見されるということだろうか。