ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Zadie Smith の “NW” (3)

 今回、裏表紙の見返しにある紹介記事を読んで初めて知ったのだが、作者の Zadie Smith 自身、ロンドンの北西部生まれなのだそうだ。してみると、本書の舞台は彼女にとってまさに勝手知ったるテリトリー。そこで起きる事件も大なり小なり、実際にあった出来事と似たようなもので、登場人物にも複数のモデルがいたかもしれない。
 少なくとも、そんな想像をかきたてられるほど、本書は当地の住民の生活風景をリアルに映しだし、ありのままの人生の断片をちりばめている……ような気がする。しかも、たんなるローカル・ピースにとどまらず、どこの街に住む人びとにも当てはまる人生の真実が描かれている。各人物が「それぞれ悩み、苦しみ、悲しみ、笑い、愛し、憎みながら生きている」し、「その悲喜こもごも、愛憎からは、自分は何者なのか、人生に意味はあるのか、といった実存の問いも聞こえてくる」からだ。
 けれども一方、ここに提出された「人生の断片」がしばしば断片のままにとどまり、まるで「組み立てる前のジグソーパズルのピースといったものも多」いことも事実だろう。ひょっとしたら作者は、「筋書きも条理もあるかなきか、混沌として雑然とした世界こそ人生なのだと」考えているのかもしれない。そしてそんな人生を反映させるには、こういう表現の仕方が最適である、という計算が働いていたのかもしれない。
 もしこの推測が正しいとしての話だが、たとえば「恋愛感情のもつれと不条理な殺人を扱った第2部に比較的まとまりがあり」、読みごたえのあるエピソードとなっているように、もう少しストーリー性を意識すれば、さらに大きな感動が得られたのでは、という気がしないでもない。このあたり、好みの分かれるところで、いや、このままで十分という人もいるだろうけれど。
 要は、人生のナマの材料をナマのまま出すのではなく、多少なりとも味つけしてほしい。ところが、本書はその味つけが足りない、というのがぼくの結論である。きのう、「小説の創作の問題」ともったいぶったわりには平凡な感想ですな。