これはもし再読したら、きっと★を一つ追加したくなるのではないか。「ゆるやかに進む序盤」のあちこちに張りめぐらされた伏線を発見し、それを読み落としていた不明を恥じると同時に、その巧みさに舌を巻くことになりそうだ。
そうとは知らず、「最初、かったるい」と思いながら読んでいたのだが、読めば読むほどおもしろくなり、終わってみると、まことにウェルメイドなメロドラマでした。
第1部では、愛し合っているはずの若い夫婦になぜかすきま風が吹く。その娘が主人公になった第2部では、彼女がイケメンの男の子に思いを寄せ、恋がたきと熱いバトルをくりひろげる。第3部でも主役が交代し、また一見べつの物語がはじまる。
そんな途中の展開を見て、明らかにこれは「長編というより、連作の中編小説集といったほうがいいかもしれない」と思ったものだが、それが「次第に……長編へと収斂していく」とは予想外。なんだこれ、たいしたことないなあ、とバカにしながら読んでいたのがいけなかった。
「人間の断絶と二律背反性を巧妙にメロドラマ化した作品」とレビューに書いたが、もし直線的に話が進むだけだったら、「かったるい」「たいしたことない」で終わっていたかもしれない。それがこんなにおもしろく読める文芸エンタメに仕上がっているとは、まさしく巧みな構成の勝利ですね。