Liza Klaussmann の "Tigers in Red Weather" を読了。アマゾンUKが選んだ去年の優秀作品のひとつである。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] ゆるやかに進む序盤がやや退屈だが、じつはこれ、氷河の表面に走る細いクレバスのようなもの。読み進むにつれ、亀裂の深さに息をのむことになる。それは、ひととひとのあいだに横たわる深い溝だ。その溝を見て見ぬふりをする、あるいは心に秘密をもつ人物の表と裏の二面性。本書は、そういう人間の断絶と二律背反性を巧妙にメロドラマ化した作品である。五人の男と女たちが交代で主役をつとめる輪舞形式で、それぞれのエピソードが当初は独立した中編ながら、しだいに上記のテーマを反映した長編へと収斂していく構成がすばらしい。同じ場面やセリフが、のちの視点変化で新しい意味をもち、深みを帯びる。重層的な展開のうちに真相が見えてくる。主な舞台は、アメリカ東部の小さな島にある屋敷〈タイガー・ハウス〉。第二次大戦中から20年以上にわたる夫婦や、恋人、いとこ同士などの確執が渦まく佳篇である。