ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Barry Unsworth の “Sacred Hunger” (2)

 1992年のブッカー賞は、本書のほかに Michael Ondaatje の "The English Patient" も受賞。長いブッカー賞の歴史の中で、受賞作が2作あるのは74年と92年の2回だけだ。
 Ondaatje のほうは邦訳も出ているし、映画化もされるなど一般に有名な作品である。ぼくもその昔、現代文学に傾斜しはじめたころ、タイトルだけは知っていたのでさっそく飛びついたものだ。とてもおもしろかった!
 それにくらべ、この "Sacred Hunger" はどうも未訳のようだ。ぼくもいつ、どんなきっかけで入手したのかさっぱり憶えていない。雑感にも書いたとおり、去年、結果的に Barry Unsworth の遺作となった "The Quality of Mercy" を読み、旧作を何冊か積ん読中だったことを思い出したくらいだ。
 それゆえ、どういういきさつで2作受賞となったのかも知らないが、おそらく選考委員の意見が二分して結論が出なかったか、まったく甲乙つけがたいという判断だったのだろう。
 ぼく自身も、甲乙つけがたいと思う。"The English Patient" を読んだのは、まだレビューらしきものを書く以前のことなので、当時の記憶を呼びさますしかないのだが、とにかく夢中で読みふけったことだけは憶えている。面白度という点では、明らかに同書のほうが上回っている。
 けれども、文学的な深さでは、"Sacred Hunger" のほうが数段まさっている……ような気がする。確たる自信はないが、"The English Patient" を読んでいて、何かしら人間性への洞察に目からウロコが落ちる思いをした、という記憶はどうもない。
 "Sacred Hunger" は、一般受けする作品ではないかもしれない。いまだに邦訳が出ていないのも、ひとつにはそういう判断が働いているからだろう。ぼくも途中まで、「なんだか長大なイントロを読まされているような印象だ。退屈ではないがオモローともいえず、☆☆☆★★くらいだろうか」と思っていた。
 ところが、ぼくの読んだ Norton 版で全630ページのうち、500ページ前後から頭がカッカと燃えはじめた。これはすごい作品だということが、ようやくわかってきたのである。