職場が繁忙期に入り、きのうも土曜日なのに帰宅は夕方。ブログを書く気力もなく、晩酌をしたあと眠りこけてしまった。毎度ながら、宮仕えの男はつらいよ、ですな。
さて、本書を読みおえてから4日たったが、いまふりかえっても、「これはすごい作品だ」と思う。小説を読んでいて、「頭がカッカと燃え」るような知的昂奮をかきたてられたのは、今年にかぎって言えば、Laurent Binet の "HHhH" [☆☆☆☆★] 以来だろう。
ただ困ったことに、本書のすごさを説明するためには、どうしてもある程度、ネタを割らないといけない。ぼくはふだん、レビューらしきものを書くとき、なるべくネタバレにならないように気をつけているのだが、今回はその原則をかなり枉げざるをえなかった。
つまり、奴隷船で反乱が起きることと、パリスが「フロリダで、白人と黒人が平等の立場で自由に暮らす地上の楽園を建設する」こと。この2点だけは明らかにしておかないと、レビューの書きようがなかったのである。
まず反乱の問題だが、パリスは「黒人奴隷たちへの非情な仕打ちに義憤を覚え」るものの、奴隷の解放のためになんの躊躇もなく立ち上がるわけではない。彼の前には the slave-takers had to be killed in any case. (p.517) と説く者も現われるが、パリスは killing .... in cold blood (〃) という行為に全面的に賛成しているわけではない。
それどころか、自分には they [all the people] should live in peace and freedom, without coercion (〃) などという正義を訴える資格があるのか、と疑っている。詳しい事情は省くが、とてもそんな資格はない、と絶望さえしている。
にもかかわらず、「悪を座視できずに立ち上が」る。現代文学を読んでいて、こういう道徳的ジレンマにおちいった人物に出くわしたのは、ここ数年、ちょっと記憶にない。
……ううむ、書けば書くほどネタを割らないといけなくなってくる。もし時間があれば、こんな中途半端な報告ではなく、Barry Unsworth のほかの作品も読んだうえで、この "Sacred Hunger" についてじっくり論じてみたい。いつもなら読書メモはすぐに捨ててしまうのだが、今回は本の中にはさんでおくことにしよう。
いまさら言うまでもなく読書は人生を楽しくするものだが、ぼくにとっては、自分の脳を鍛え、人生を豊かにしてくれる楽しさがいちばんである。そのことを再確認させてくれた作家が昨年6月に物故してしまったとは……。東洋の島国から、たいへん遅ればせながらご冥福をお祈りします。