ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

John Williams の “Stoner” (1)

 John Williams の "Stoner" を読了。1965年の刊行だが、今年になってヨーロッパ各国で翻訳がベストセラーとなり、おそらくその波及効果だろう、現在、アマゾンUKでも古典小説部門でベストセラーとなっている作品である。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★★] 長い人生のあいだには、ときどき奇人変人に出くわすことがある。愛すべき変わり者ならいいが、唯我独尊、自分の世界しか目に入らず強迫観念にとり憑かれ、激しい感情を抑制できず他人にぶちまけ過激な行動に走る。それがもし自分の配偶者だったら、職場の同僚だったら、まことに不運としかいいようがない。本書のドライブ感覚にも似た圧倒的な物語の迫力は、善良で純粋、常識人である英文学者ストーナーがその不運に見舞われたことから生じている。とりわけ、彼と対立する主任教授や、その愛弟子とのバトルが壮絶。三人の登場する口頭試問の場面など、リーガル・サスペンス顔負けの緊張感で息苦しくなるほどだ。一方、ストーナーは家庭でも不幸な結婚生活をしいられる。大なり小なり似たような境遇の読者もいるはずで、とかく人生はままならない、との思いをあらためて強くすることだろう。そんな悲劇の主人公にも至福のひとときが訪れる。本質的にはメロドラマだが、結末がすぐにわかるだけに、なおさらその瞬間が永遠につづいてほしいと願う。それは読者が主人公に感情移入し、物語のとりことなった瞬間でもある。