ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Death in Venice" 雑感(1)

 そのうちまた現代文学も採り上げる予定だが、今しばらく青春時代からの宿題を片づけないといけない。還暦もとうに過ぎ、お迎えが頭の片隅でちらつくようになったからだ。新聞の訃報記事を見かけると、まっ先に故人の年齢をたしかめる、という話はどこかで聞いたことがあるが、とうとうぼくもそんな歳になってしまった。
 そこで今回は、Thomas Mann の短編集 "Death in Venice " (Vintage 版)。Thomas Mann は、20世紀世界文学の中でぼくが最も高く評価している作家の一人だ。それどころか、もしぼくが世界の十大小説を選ぶとしたら、"The Magic Mountain" はぜったい外せない名作だと思っている。が、残念ながら同書の英訳版は、まだレビューらしきものを書きはじめる以前に読んだので詳しい分析はしていない。"Buddenbrooks" もそうだ。
 『非政治的人間の考察』ならその昔、邦訳でノートを取りながら精読したことがある。ぼくが読んだのは、神保町の古本屋で買い求めた新潮社版の全集だが、いま検索してみると、なんと筑摩叢書版ですら新刊は入手困難のようだ。上の全集にいたっては影もかたちもない。セットで買っておいてよかった。
 二十世紀最高の知性のひとつ、というのが同書を読んだときの印象である。昔のノートを拾い読みしても、その感想は変わらない。英訳で "The Magic Mountain" と "Buddenbrooks" を読んだときも同じ感想を持った。その後、"Doctor Faustus" [☆☆☆☆] に感服 http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071202/p1。"Confessions of Felix Krull" [☆☆☆★★] には不満を覚えたが http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080901/p1、これは未完の作品だから仕方がない。
 と、こうして乏しい Thomas Mann 体験をふりかえってみると、まことにお恥ずかしいかぎり。なにしろ、『ヴェニスに死す』はどうした、『トーニオ・クレーゲル』は? と自分でも思うからだ。じつはこの二作、なんと今まで未読だったのです。
 正確に言うと、若い頃、邦訳で読みかけたことはあるのだが、両作とも途中で挫折。どちらも当時のぼくには難解な箇所があり、そこで投げ出してしまったのだ。以来、ずっと気になったまま、なかなか手が伸びなかった。
 というわけで今回、「青春時代からの宿題」を英訳版で果たそうと思った次第である。きょうはイントロだけでおしまい。
(写真は、愛媛県宇和島市の郊外、松野町にある妙楽寺宇和島藩家老、山家清兵衛が上意討ちにあった際、奥方は乳母のふる里にあったこの寺に逃げ落ちたという)。