ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

David Szalay の “All That Man Is” (1)

 今年のブッカー賞候補作、David Szalay の "All That Man Is" をきのう読了。ひと晩「寝かせた」ところで、さてどんなレビューが書けますやら。

[☆☆☆★★★] 形式的にはナイン・ストーリーズ。いや実質的にも短編集だが、もしこれを長編と考えるなら、主人公はタイトルどおり「男」。17才の少年から70過ぎの老人まで、9人の男がリレー方式で次第に年齢を上げながらイギリスからクロアチアまで、ヨーロッパ各地で男ならではの人生を歩む。青春の挫折、喪失と苦悩、女とのすれちがい、私情と仕事の板ばさみ、迫られた選択、事業の失敗、迫りくる死。男がいつかはどこかで必ず経験する人生の厳しい局面が、時にユーモアをまじえながらほろ苦く、あるいは張り詰めた空気のなかで重苦しく、それぞれの場面にふさわしい筆致で描かれる。よかれあしかれ、泣いても笑っても、これが男の人生なのだ、というわけである。と同時に、人生は冗談ごとではない、というメッセージも読みとれ、そしてなにより鋭い感覚で一瞬、心のひだを、人間存在の現実をとらえたものという意味で、これはけっして性差別小説ではない。人生の過ぎゆく時間を、ひとつひとつの瞬間を永遠の流れのなかに定着させようとする試みともいえよう。作者は、人生のはかなさと永遠性を同時に見つめている。これはその葛藤から生まれた短編集にして長編小説である。