ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

David Szalay の “All That Man Is” (1)

 今年のブッカー賞候補作、David Szalay の "All That Man Is" をきのう読了。ひと晩「寝かせた」ところで、さてどんなレビューが書けますやら。

All That Man Is: Shortlisted for the Man Booker Prize 2016

All That Man Is: Shortlisted for the Man Booker Prize 2016

[☆☆☆★★★] 形式的にはナイン・ストーリーズ。いや実質的にも短編集だが、もしこれを長編と考えるなら、主人公はタイトルどおり「男」。17才の少年から70過ぎの老人まで、9人の男がリレー方式で次第に年齢を上げながらイギリスからクロアチアまで、ヨーロッパ各地で男の人生を展開する。青春の挫折、喪失感、女とのすれ違い、私情と仕事の板ばさみ、迫られた選択、事業の失敗、迫りくる死。男が生きて行くうちにいつかはどこかで必ず経験する人生の厳しい局面が、時にユーモアをまじえながら、ほろ苦く、あるいは張り詰めた空気の中で、重苦しく、それぞれの場面にふさわしい筆致で描かれる。よかれあしかれ、泣いても笑っても、これが男の人生なのだ、というわけである。が、それと同時に、人生は冗談ごとではない、というメッセージも読み取れるほか、なんと言っても鋭い感覚で一瞬、心のひだを、人間存在の現実をとらえたものという意味で、これは決して性差別小説ではない。人生の過ぎゆく時間を、ひとつひとつの瞬間を永遠の流れの中に定着させようとする試みとも言えるだろう。作者は、人生のはかなさと永遠性を同時に見つめている。これはその葛藤の中から生まれた短編集にして長編小説である。
(写真は、宇和島市明倫橋からながめた神田(じんでん)川)