ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The Mansion" 雑感(1)

 ゆうべ愛媛の田舎から帰ってきた。向こうにいたのは実質一日、日曜日だけ。あわただしい帰省だった。
 だから、どうせ読めないだろうと思いつつ、フォークナーの "The Mansion"(1959)をバッグに詰め込んだが、飛行機やバスの中で意外にも先へ進むことができた。そこできょうは珍しく、途中経過をメモしておこう。
 まず、これは the Snopes trilogy スノープス三部作の中でいちばん読みやすい。むろん三冊続けて取り組んでいる最終巻ということで、さしもの難物にもいくぶん馴れてきた、という側面はある。
 が、それを差し引いても、本書の英語はフォークナーにしては明らかに易しい。たとえば、前巻まではつねに sho だったものが、ここではほとんど sure という標準表記。一事が万事で、かなり標準英語に近づいている。逆に、前二作がなぜむずかしいかと言うと、ひとつには、南北戦争から約半世紀のあいだ、実際に南部で話されていた英語を会話はおろか、地の文でもそのまま再現しているからではないだろうか。
 単語レベルだけでなく、センテンス単位でも易化している。前巻までは、しばしばワンセンテンスがえんえんと続くのに閉口したものだが、本書の場合、その頻度は減少。ホッとする反面、逆にもの足りない気もするくらいだ。
 内容的にも易しくなっている。前二作 "The Hamlet"(1940)と "The Town"(1957)に出てきた人物やエピソードをかいつまんで紹介したくだりが多いからだ。若干 discrepancy もあるようだが、これはご愛嬌だろう。なるほど、あれはやっぱりそういうことだったのか、と以前の悪戦苦闘を思い出しながら読めるのが楽しい。
 ただ、何年か前、三部作の最終巻とも知らずに取りかかったときは、その人物関係や各エピソードの意味があまりピンと来なかった憶えがある。それも途中で投げ出した理由のひとつだった。ということは、本書は第一巻から読まなければ理解しにくい作品だということでもある。その点、評価に関係してくるかもしれませんな。
(写真は、愛媛県宇和島市津島町のうどん屋さん、〈もく兵衛〉。今回の帰省で久しぶりに訪れたが、相変わらずおいしかった。カレーうどんがオススメです)

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